VISTA MANAGEMENT (VIETNAM)

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インスタント・ラーメン事業に縁がある4人のベトナム人経営者

先週9月28日、「ベトナムにおけるインスタント・ラーメン市場のメモ」についてお書きしました。実は、1990年代、インスタント・ラーメンで起業したベトナム人経営者が4人もいるのです。しかも、ベトナム国内ではなく、東欧で起業したのがポイントなのです。

 

この4人の中で、ベトナムに長年住んでいるなら誰でも知っているVingroupの創業者兼会長Phạm Nhật Vượng (ファム・ニャット・ブゥオン)氏と、先週紹介したMasanグループの創業者兼会長であるNguyễn Đăng Quang(グェン・ダン・クアン)氏が入っています。残りの2人はVP銀行創業者兼会長であるNgô Chí Dũng(ゴー・チー・ズン)氏とVIB銀行創業者兼会長であるĐặng Khắc Vỹ(ダン・カック・ビー)氏です。

 

  • ファム・ニャット・ブゥオン氏(VingroupMivinaインスタント・ラーメン

ファム・ニャット・ブゥオン氏は学生時代とても優秀な成績を取ったため、ロシア(当時ソ連)に留学できるようになりました。商売好きなブゥオン氏は大学3年生からベトナム国内から様々な商品を仕入れてソ連で販売していました。1990年代、ソ連は崩壊する時期になり、この時期こそが経営のチャンスだと感じ、同氏ロシアからウクライナに引っ越し、1993年8月8日に、同じくロシア元留学生の仲間たちと一緒にMivinaと言う名前のインスタント・ラーメンを作りました。

 

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Mivinaパッケージ(Phap Luat Plusより)

当時、Mivinaインスタント・ラーメンを作るための原材料は、ベトナムや台湾から仕入れられたそうです。当時のウクライナはお世辞でも豊かと言えない経済環境であったので、安くて手軽に調理できるMivinaインスタント・ラーメンは幅広くウクライナ人に受け入れられました。Mivinaが市場に出た1年後、全ウクライナの97%のシェアを占めていたそうです。Mivinaの成功を基盤に、ブゥオン氏と仲間達はドライ・パクチー、スープの粉やじゃがいもの粉も作って市場に売り出しました。Mivinaで儲けた利益は、ベトナムでVingroup社を創るために使われました。

 

2010年、ブゥオン氏はVingroupの経営に専念したいため、ウクライナの食品ビジネスをNestleに売却しました。

 

  • グェン・ダン・クアン氏(Masan Group) のインスタント・ラーメン

Masanグループの会長であるクアン氏は、ソ連留学が終了した時に一度帰国しましたが、その後またソ連に戻り(2度目ソ連に戻った時はビジネスをする目的)ました。同氏は最初に、在ソ連ベトナム人を顧客対象にしたインスタント・ラーメン(ブランド名 Mivimex)を生産して販売していました。インスタント・ラーメンを選んだ理由は、ソ連崩壊前後の生活は貧しいため、現地人は安くて手軽に食べられる料理を望んでいたからです。今まで全くインスタント・ラーメンを食べる習慣がなかったソ連人でも、クアン氏のインスタント・ラーメンは段々ソ連人にも受け入れてくれるようになりました。当時、クァン氏は毎月3000万パックのインスタントラーメンを生産し、1億4000人のソ連人にインスタント・ラーメンを販売していました。インスタント・ラーメンの成功を基盤に、クァン氏は製品のラインアップをチリソース、醤油とヌクマムに広げました。当時、辛いものを食べる習慣がなかったロシア人にとっても、クァン氏のチリソースも意外に高評価を得ました。

 

残念ながら、クアン氏のインスタント・ラーメンは最終的に、競合のRolltonインスタント・ラーメンに負け、クアン氏はロシアから撤退し、同氏の食品ビジネスをベトナムに移しました(これがMasan Groupのはじまりでもあります)。クアン氏のMasan Groupは現在に渡り、ある程度知名度が高い(北部では日本のAcecookのシェアを超えるほど)食品メーカーになりました。

 

  • ゴー・チー・ズン氏(VP銀行)Rolltonインスタント・ラーメン

はい、聞き間違えではありません、Masanをソ連から撤退させたライバルはズン氏が創ったRolltonインスタント・ラーメンです。同氏も元ソ連留学生でした。ロシアのRolltonはベトナムのHaoHaoみたいな存在であり、とても有名なブランドなのです。VP銀行(Vietnam Prosperity Joint-Stock Commercial Bank)は、ベトナムのBig4銀行ではありませんが、銀行業界内では優れた実績を得ています。例として挙げられるのが2020年に、同社は、世界で最も企業価値の高い銀行のトップ300に入ったベトナム初の民間企業であることです(Brand Financeより)。

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Rolltonのパッケージ(arofood.czより)
  • ダン・カック・ビー氏VIB銀行)Rolltonインスタント・ラーメン

VP銀行(Vietnam International Commercial Joint Stock Bank)のズン氏と共に、Rolltonを一緒に作ってきた仲間が現在VIB銀行の創業者兼会長のビー氏です。VP銀行もBig4でありませんが、銀行業界内でも優れた実績を得、2021年に「デジタルバンク革新賞」を受賞しました(The Bankerにより)。 現在、ビー氏は、VIB銀行の経営と共にRolltonインスタント・ラーメンを所有するMareven Food Holdingsの会長の役割を兼任しています。しかも、そのMareven Food Holdingsはロシアのインスタント・ラーメン市場の46%シェアを占め、世界25カ国に輸出した実績を誇る有名な食品会社です。日本の大手食品メーカーの Nissin Foodも実はMareven Food Holdingsの33.5%所有しているのです!

 

一言:

どのビジネス成功事例でも多少時代の背景があるではないかと私は思います。懐かしい名前の「ソ連」も今ではただある時期を示す名前の他ならないですが、我が国にたくさんの優秀な人材を育ててくれた「同志」でもあります。次の優秀な経営者世代は一体どの国の留学生であるのか少し楽しみにですね。